コロナ禍を機に、都会から地方へ──そんな“移住”という選択肢に、あなたは何を感じますか?
テレワークが当たり前になり、働き方も暮らし方も見直される今、どこで生きるかは「誰とどう生きるか」と同義になってきています。
映画『サンセット・サンライズ』は、そんな時代のうねりの中で、東京から南三陸町へと移住した一人の男・西尾晋作(菅田将暉)の視点から、地方移住のリアルと人との関わりを描くヒューマンドラマです。
漁師町の住人たちとの“距離感ゼロ”な交流に戸惑いながらも、主人公が見つけていく「本当の豊かさ」とは何なのか──。
この記事では、南三陸という町に根差す人々との関係性を軸に、『サンセット・サンライズ』が私たちに問いかける“移住”の意味を読み解いていきます。
『サンセット・サンライズ』の舞台・南三陸町とは?
南三陸町の基本情報と映画のロケ地
宮城県の沿岸部に位置する南三陸町は、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域のひとつ。
しかしその傷跡とともに、町は少しずつ、確かに“再生”の歩みを進めてきました。
映画『サンセット・サンライズ』は、そんな南三陸町の“今”を映し出す作品。
作中では、実在する漁港や商店街、海が見渡せるオーシャンビューの空き家などが、フィクションの町「宇田濱町」として描かれています。
ロケ地巡りを目的に訪れる観光客も増えており、町に新たな息吹をもたらしているのです。
なぜ南三陸が舞台に選ばれたのか?その背景
脚本を手がけた宮藤官九郎氏は、宮城県出身。震災後の東北をずっと見つめてきた一人です。
単なる“移住礼賛”や“美化された田舎”ではなく、「今の南三陸町」を描くには、そこに生きる人々の営みを嘘なく、ユーモアと共に伝える必要がありました。
都会から来た一人の男の視点を通して、南三陸の自然、生活、人の温度感がありのままに描かれる本作。
南三陸が選ばれたのは、「復興のシンボル」だからではなく、そこで“普通に生きている人々”がいるから。
そのリアリティこそが、この映画の強さであり、やさしさなのです。
物語の中心にある“お試し移住”というリアリティ
主人公・晋作の移住動機と現実とのリンク
西尾晋作(演:菅田将暉)は、東京の大企業に勤めるサラリーマン。
コロナ禍でリモートワークが常態化し、働く場所の選択肢が増えたある日、彼は南三陸町の物件情報をネットで見つけます。
家賃6万円、海が見える4LDK──それは、都会では手に入らない“余白”のある暮らしでした。
「ちょっと住んでみるか」という軽い気持ちで始まった“お試し移住”。
けれどそれは、晋作にとって「他人とちゃんと向き合う」「自分を偽らずに生きる」ための再出発でもありました。
空き家、家賃、働き方──描かれる南三陸の“リアルな生活”
映画は、地方移住の「あるある」もきちんと描きます。
地元の人に警戒される“よそ者”扱い、草刈りのルール、隣人との距離の近さ。
でもその全部が、「人と生きるってこういうことかもしれない」と思わせるのです。
また、空き家バンクや移住支援制度、テレワークの柔軟性など、現代の移住事情もさりげなく盛り込まれていて、
「ドラマなのに、めっちゃリアル」と観客が感じるポイントになっています。
南三陸での暮らしが、まるで“もうひとつの現実”として心に迫ってくるのです。
南三陸の人々との交流が描く“地方の人間関係”
地元住民のキャラクターと“距離感ゼロ”の温度
晋作が最初に出会うのは、家の大家であり町のマドンナ的存在・関野百香(井上真央)と、彼女の父で漁師の章男(中村雅俊)。
そして、町の「モモちゃんの幸せを祈る会」と名乗る謎のご近所集団。
──全員、距離感が、ない。
東京では「干渉」と呼ばれそうな会話や行動が、ここでは「親切」や「日常」だったりする。
その違和感に戸惑いながらも、観る側の私たちも、どこかで羨ましく感じてしまう。
人が人をちゃんと見て、声をかける。
そんな関係性を、もう一度信じたくなるのです。
文化の違いに戸惑いながらも、人と繋がる希望
晋作は最初、地元の習慣やコミュニケーションの“濃さ”に抵抗を感じます。
でも、それを拒まず、むしろ「なんか、面白そう」と飛び込んでいく。
その柔らかさが、彼自身を変えていくのです。
南三陸の人たちは「何かあったら、うち来いよ」と言う。
その一言の重さと、やさしさ。
人と繋がるって、こんなにも体温が必要なんだと、教えてくれるのです。
東北出身クリエイターが紡いだ“再生の物語”
脚本:宮藤官九郎、監督:岸善幸の視点
脚本を手がけた宮藤官九郎は宮城県栗原市出身。
震災を経験した土地で生まれ育ち、彼は東北を「語る資格がある」のではなく、「語らずにはいられない」存在として描きます。
監督・岸善幸は山形県出身。
ドキュメンタリーのように、でも確かに“ドラマ”として、南三陸の空気や温度を画面に映し出していきます。
地方に“希望”だけを投影しない。
だからこそ、そこに住む人々の生活が、ちゃんと息づいて見えるのです。
震災後の町と向き合うためのフィクションとして
震災を直接的に語るシーンは少ない。
けれど、どのシーンにも“それ以後”を生きる人々の眼差しが宿っている。
例えば、津波で家族を亡くしたことを一度も口にしない登場人物がいる。
でも、彼のふとした一言や視線に、観ている側が“察する”瞬間がある。
この作品は、震災の記憶を消さずに抱えながら、どう生き直していくのか──その姿勢を、やさしく、でも確かに突きつけてきます。
まとめ:移住とは、第二の人生ではなく“本当の自分”に出会う旅
都会から逃げるのではなく、“向き合う”選択
『サンセット・サンライズ』の主人公・晋作は、都会を捨てたのではなく、自分と向き合うために南三陸を選んだ。
海の見える家も、地元の人の声も、最初は“非日常”に見えたその暮らしが、やがて彼の“日常”になっていく。
それはきっと、観ている私たちにも言えること。
どこに住むかよりも、どんな風に生きたいか。
移住とは、ただ場所を変えることではなく、自分の価値観と“ちゃんと向き合う”ことなのだと、この映画は教えてくれます。
南三陸で描かれた“人と暮らし”の豊かさ
震災を経た町、南三陸。
そこには“傷”もあるけれど、“営み”もある。
映画が映し出すのは、特別なドラマではなく、そこで生きる人々の「普通の温度」です。
人と人との関係が、ややこしくて、あったかくて、ちょっと面倒で、でもやっぱり好きだと思える。
そんな“暮らし”の豊かさが、この映画には詰まっています。
『サンセット・サンライズ』を観終わったとき、きっとあなたも思うはず。
「こんなふうに、生きてみたい」と。
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