「この二人、本当に結ばれてよかったのか――」
NHK朝ドラ『あんぱん』を見て、そんな風に感じた人も多いのではないだろうか。
“のぶ”と“嵩”の関係は、一見するとロマンティックな幼なじみの恋。
けれど、史実に目を向けると、それは「戦争で引き裂かれた初恋」ではなく、
「人生の再スタートとして選ばれた愛」だった。
戦争、別れ、そして再会――。
この記事では、のぶの再婚という事実を軸に、
実在モデル・小松暢(こまつ のぶ)さんとやなせたかしさんの
“知られざる夫婦の絆”をひもといていく。
“のぶ”のモデルは誰?再婚までの道のり
戦時中に結婚、そして夫との死別
朝ドラ『あんぱん』のヒロイン・のぶには、実在のモデルがいます。
その名は、小松暢(こまつ のぶ)さん。1918年、大阪に生まれた彼女は、
昭和の激動を生きた、芯の強い女性でした。
21歳のとき、彼女は日本郵船の社員・小松総一郎さんと結婚します。
しかし、その幸せは長くは続きませんでした。総一郎さんは戦争に召集され、
帰還後すぐに病に倒れ、この世を去ったのです。
戦争は、一人の女性から愛する人を奪い、「戦争未亡人」としての人生を強いました。
家計を支えるために働かざるを得なかった暢さんは、社会の偏見と差別にもさらされながら、
それでも“次の一歩”を踏み出す覚悟を決めたのでした。
再就職と出会い――やなせたかしとの運命
1946年、小松暢さんは高知新聞社の記者募集に応募し、
当時としては非常に珍しい初の女性記者として採用されます。
そして、運命はこの地で彼女に再び微笑みます。
そこで出会ったのが、のちにアンパンマンを生み出す漫画家・やなせたかしさんでした。
最初は同期として、同じ編集部で働いていた二人。
内向的で繊細な感性を持つやなせさんと、快活で自立した暢さん。
その正反対の性格が、やがて深い絆へと変わっていきます。
のぶと嵩の愛は、人生を“やり直す”覚悟から始まった。
それが、フィクションには描かれない“史実のロマンス”だったのです。
朝ドラ『あんぱん』と史実の違いとは?
ドラマでは幼なじみ、史実では“戦後の出会い”
『あんぱん』では、のぶと嵩が幼なじみとして描かれています。
小さい頃から隣で笑い合い、時にすれ違いながらも再び結ばれる――
そんな王道ラブストーリーに胸を打たれた視聴者も多いでしょう。
しかし、史実ではこの設定は事実ではありません。
二人が出会ったのは、戦後の高知新聞社でのこと。
すでにお互いに“大人”であり、しかも暢さんは夫を戦争で亡くしたばかりでした。
この「出会いの違い」は、ドラマとしての物語性を重視した結果だと
脚本家の中園ミホさんも語っています。
あくまで『あんぱん』は“フィクション”としての再構築なのです。
フィクションが描いた“のぶ”の強さ
それでも、多くの人がのぶに心を動かされたのはなぜか。
それは、彼女が「誰かに守られるヒロイン」ではなく、
「自分の足で立ち続ける人間」として描かれていたからです。
実際の小松暢さんも、高知新聞社で男性記者に混じって活躍したパワフルな女性でした。
困難な時代を生き抜き、自分の再婚も「自分の意思で選んだ」こと。
その背景を知ると、ドラマの“のぶ”が
より「現代にも通じる強さ」を持ったキャラクターとして
私たちの心に響く理由が見えてくるはずです。
“のぶ”と“嵩”が選び直した人生――再婚に込められた覚悟
再婚という選択と、時代の壁
昭和20年代後半、日本ではまだ再婚という選択が珍しかった時代。
特に、若くして戦争未亡人となった女性には、
「いつまでも故人の妻でいなさい」というような空気もあったといいます。
そんな中で、暢さんは再び誰かを愛し、「人生をやり直すこと」を選びました。
それは、時代に流されず、自分の幸せを自分で掴みにいくという意思の表れだったのです。
再婚後も彼女が語った言葉の中には、
「自分は幸せになる資格がある」と
自分自身を肯定し続けた、強い信念がありました。
創作を支え続けた妻としての人生
やなせたかしさんは、生涯を通してアンパンマン以前には大きなヒット作に恵まれず、
貧しさや焦りと戦う日々を過ごしていました。
そんな時期を支え続けたのが、他でもない暢さんでした。
仕事のサポートはもちろん、生活面でも彼を支え、
やなせさんがアンパンマンを生み出す“根っこ”の部分を支えていたのです。
「人は何度でも、誰かと出会い直せる」
のぶと嵩の結婚は、そんな希望の物語でもありました。
まとめ:ドラマでは描ききれなかった、“のぶ”のもう一つの物語
朝ドラ『あんぱん』で描かれた“のぶ”と“嵩”の関係は、
フィクションとしての美しさに溢れていました。
でも、本当に心を打つのは、「史実ののぶ」の人生かもしれません。
一度は愛を失い、悲しみの中にいた彼女が、
もう一度愛することを恐れずに、新しい人生を選び直した勇気。
そしてその選択が、やがて「アンパンマン」という希望をこの世界にもたらした。
“再婚”だったからこそ生まれた絆がある。
「一度目の別れ」も、「二度目の選択」も、どちらも愛だった。
のぶと嵩の物語は、
「何度でも、人生をやり直せる」という、
静かだけど、力強いメッセージを私たちに残してくれています。
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